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中国ドラマ「大奉打更人」レビュー - 王鶴棣の熱演が光る本格時代劇

大奉打更人

主演: 王鶴棣(ワン・ホーディー)、田希薇(ティエン・シーウェイ)
ジャンル: 時代劇、ミステリー、アクション

【ネタバレあり】圧巻のラスト3話 - 心揺さぶられる展開

「大奉打更人」の最終局面は、まさに圧巻の一言に尽きる。ラストには若干の肩透かし感はあるものの、そこに至るまでの描写と主人公・許七安の心情描写は本当に素晴らしいものだった。

主演の王鶴棣(ワン・ホーディー)の熱演は特筆すべきもので、彼の感情表現から許七安の苦悩が痛いほど伝わってくる。視聴者の心に深く刺さる演技だった。

正直なところ、中盤では本筋とは関係の薄い脇役の恋愛描写にややイライラすることもあった。しかし、一貫して役者陣の演技レベルは非常に高く、作品全体のクオリティを支えていたと感じる。

鄭大人という役柄の深み

特に印象的だったのが鄭大人役の演者(馮暉)だ。出番こそ少なかったものの、まさに役者冥利に尽きる重要な役どころだった。

「徐々に事を図れ」と助言される鄭大人。視聴者として鄭大人のここまでの表情を見てきているからこそ、また、心情が伝わっていたからこそ、ここで止まることは出来ないし、耐えられないだろうな、と思っていたら、やはりそうだった。

復讐のために仕切り直す? それも一つの選択肢だろう。
正しい政治を実現するために時間をかける? それも理性的な判断だと思う。

しかし、鄭大人にはもうこれ以上、言葉にすることすら難しいほどの辛さを、毎日やり過ごしながら息をし、やりきれない思いを胸に抱えていることはできなかった。

彼の目的は復讐でもなく、政治改革でもなかった。ただ真実を明らかにし、心の中の憤りと虚しさを分かってほしかったし、事実に基づいた正当な裁きが行われることを望んでいただけなのだ。

鄭大人の死が意味するもの

理不尽に命を奪われた鄭大人。しかし、その死は彼にとって救いであり、同時に大きな希望でもあった。

殺される瞬間でさえ、彼の心にあったのは個人的な復讐心ではなく、この地で生きる人々への希望だった。自分の死が正義のための火種となることを確信した、ある意味で安らかな最期だったのだ。

「許七安」は大牢(刑務所)に駆け込み、救い出そうとした。だが、老いた忠臣は刑架に吊るされ、全身傷だらけで、もはや息も絶えていた。その光景を目にした瞬間、先ほどまでの高揚した感情が一気に冷め、その彼の眼が静かに黒く塗りつぶされていくような感覚を視聴者に伝えてくる。

恐ろしいほどの冷たさを目に宿しながらその光景を見つめる許七安は、やがて溢れ出る自分の涙にも気付かないのか鄭大人に歩み寄ると、冷たくなった「鄭大人」の枷を切り落とした。「鄭大人」が彼の腕の中に崩れ落ちた瞬間、鄭大人を受け止めた許七安が見せた心が砕けるような表情に、感じたことのない感情を覚えて、心が痛くなった。

王鶴棣はこの場面で、激しい感情を抱えながらも終始自制した演技を貫いていて、それが逆に痛々しいほどに激しく気持ちを伝えてきた。

王鶴棣(ワン・ホーディー)の演技力

鄭大人の死を、許七安はどのように受け止めたのか。世の中の理不尽さとどう向き合い、深い悲しみをどう乗り越えていったのか。

王鶴棣はその全てを、あの短い時間で圧倒的な表現力で体現した。馮暉演じる鄭大人の素晴らしい演技があったれば、ではあるだろうけれど。

正直に言えば、ここまでの演技ができる俳優だとは思っていなかった。完全に予想を超える熱演で、今後の活躍が本当に楽しみな俳優だと確信した。私の中での評価は爆上がりだ。

王鶴棣と劉奕君 ― 官道での対峙シーン

「許七安」は、「鄭大人」を陥れた共犯である曹国公と護国公を刑場に引きずり出し、その場で斬首する決意を固める。官道で兵を率いて進む彼の前に立ちはだかったのは、打更人の首領「魏淵」(劉奕君)。兵たちはすでに「鄭興懐」の冤死の真相を知っており、揺るぎなく前へ進む許七安の姿を見て、敬意を払う。

許七安が魏淵の脇を通り過ぎようとしたとき、魏淵は静かに語りかけた。

「策を巡らす者には忍耐が必要だ。匹夫の勇は、その場は痛快でも、もっと多くを失うことになる。まだ時ではない。戻れ。」

許七安は涙をこらえながら、口元をわずかに引き上げて答えた。

「私は魏公とは違う人間です。魏公は廟堂に身を置き、忍ぶことも、変化へ対応することもできる。しかし私は武人なので、大局を顧みるよりも、自らの良心を裏切らないことの方が大事なのです」

そう言い終わると、彼は「鄭大人」が生前に託したメモを魏淵へ手渡した。

王鶴棣はこのシーンで、涙を湛えながらも必死に堪える表情や、信念を揺るがせない姿を繊細且つ覇気を感じさせながら演じ切り、老練な俳優・劉奕君にまったく引けを取らない存在感を見せた。

作品全体の評価 - 深いテーマを描くが、前半〜中盤が惜しすぎる

前半〜中盤の印象

中盤あたりは「子ども向けの作品かな?」と思うこともあった。中だるみもあるし、前半から中盤にかけては半分コメディタッチの展開も多い。

ぐだぐだとストーリーに関係ない話が続いたり、必要のない演出にイライラもする。

後半で描かれる深いテーマ

しかし後半は全く異なる。かなり深いテーマを扱っており、一度の視聴では理解しきれない複雑な内容も含まれている。後半の見応えは十分で、むしろ大人向けの本格的な時代劇と言える。

まとめ - 「大奉打更人」は視聴する価値のある作品だが、後半だけで良い

「大奉打更人」は、前半のコメディ要素から後半の重厚なドラマへと変化していく、振り幅の大きい作品だ。

こんな人におすすめ:

  • 本格的な中国時代劇が好きな人
  • 王鶴棣(ワン・ホーディー)のファン
  • 人間ドラマや正義をテーマにした作品が好きな人
  • じっくり考えさせられる作品を求めている人

中国の歴史ドラマが好きな人は、ぜひ一度視聴してみては。

中盤の中だるみはあるが、それを補って余りある後半の展開と役者陣の熱演は必見だ。特にラスト5話は見逃せない。


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